スペイン特集

2017年1月17、18日に行われたNHK定期公演では、待望の曲が演奏されました。

プログラムの概要は以下の通り。

  1. 歌劇「はかない人生」─ 間奏曲とスペイン舞曲 (約8分)
  2. アランフェス協奏曲 (約22分)
  3. 「映像」─「イベリア」(約20分)
  4. バレエ組曲「三角帽子」第1部、第2部 (約25分)

この組み合わせなら是非行きたかったのですが、どうしても日程の折り合いがつかずに、残念ながら録画での視聴となりました。

 

録画は3月19日のクラシック音楽館で放送されました。

 

このプログラムを知った当初は三角帽子に期待を寄せていたのですが、オークションに出すパソコンを整備しつつ録画を見ているうちに、それまで忘れていたいろんなことを思い出してしまいました。

 

おそらく、このネタだけで数回にわたって書くことになると思いますが、ご容赦ください。

そもそも三角帽子とは?

三角帽子は、スペインの作曲家、マニュエル・ド・ファリャによって作曲されたバレエ組曲の一つです。

原題は”El sombrero de tres picos”

これを日本語訳すると「三角帽子」となるわけです。三つのツノがある帽子です。

三角帽子は、以下のストーリーにも書いていますが、役人(代官)を象徴する装束なのです。

 

ストーリーをごく大雑把に説明すると、

アンダルシアのある町で、見た目が悪いが働き者の粉屋と、美人の女房が住んでいる。

 

ある日、好色な代官がこの女房に目をつけ、お忍びで現れる。 代官は言い寄るが、からかわれた末にその場に倒れてしまう。出てきた粉屋が代官を殴り、代官は引き揚げる。

 

その日の夜、近所の人々が祭の踊り「セギディリア」を踊っている。粉屋も「ファルーカ」を踊りだす(粉屋の踊り)。

 

激しい踊りが続くが、代官のわなにより、粉屋は無実の罪で2人の警官に逮捕されてしまう。

 

代官は女房を奪い取ろうと忍び寄ってくる。代官は服を脱ぎ、粉屋のベッドに潜り込む。そこに逃げ出してきた粉屋が戻ってくるが、代官の服を見て自分の服と代官の服を交換し、代官の女房のところに向かう。

 

代官は粉屋の衣服を着て外に出て、警官に見つかり、その警官と近所の人に袋叩きに遭い、逃げていく。 近所の人たちは、平和を取り戻した粉屋の夫婦を中心に、一晩中踊って一件落着。<span class="su-quote-cite">WikiPedia</span>

という感じでしょうか。

まぁ、日本でいう水戸黄門みたいなストーリーです。

とにかく喧騒の多いストーリーなのですが、ファリャによって作曲された音楽は、ドビュッシーなど、同じ時期に活躍していた作曲家たちの影響や助言も受けつつ、何度聞いても飽きのこない音楽に仕上がっています。

三角帽子との出会い

三角帽子との出会いは、高校の時に在籍していた吹奏楽部で、夏のコンクールに演奏するための曲選びの候補としてあげた曲の一つです。

当時指導してくださった恩師の先生は、曲選びには一切口を出さず、部員同士が民主的に(時には組織的に)話し合い、自分たちが本当にやりたい曲を演奏させていただけた先生です。

 

当時は高校2年生。

それまで、しばらく金賞から遠のき、まずは確実に金賞を取れるような曲をやるべきという風潮の中、僕と悪友はグーグルもない当時にいろんなリサーチをやったのち、「三角帽子」を推そうぜ、という流れになりました。

 

理由はいろいろあるのですが、一つはその当時コンクールの上位校がやっていた曲であるということ、もう一つは中学校の時の恩師が一度手がけた曲なので、アドバイスを受けやすいという理由でした。

 

まずは悪友と二人で街の楽器屋に行き、三角帽子が入っているCDをゲット。

幸いなことに二つの版を得ることができたので、それぞれ購入して聴き比べ。

それから部活での選曲会議に挑みました。

 

選曲会議は基本、部員全員が参加します。

車座になって、学年関係なく意見を言うわけです。

 

幸い、楽譜は中学校から借りてきたので、資料として各パートに配ることができました。

 

しかし、木管楽器だけでなく、金管楽器からは「こんな難しい曲はできない」などの意見が殺到。

 

まぁ、ホルン吹きとサックス吹きのこれまた悪友は、「粉屋の踊り」初頭のソロで美味しい思いをできるので、まずは彼らを味方に。

次はパーカッション。

曲によってはパーカッションは暇な曲も多いわけですが、この曲はとにかく打楽器が休む暇もないくらい出番がありますし、美味しいところもあるので、彼女らも味方につけて勢力増強。

 

九州の田舎ということもあり、時には汚い言葉で言い合うこともありましたが、最終的には全員の合意を得て、三角帽子をやることになりました。

男泣き

曲が決まってからは毎日猛練習。

とはいえ、一応進学校なので、練習時間は夕方のせいぜい2時間くらい。

コンクール前の夏休みに終日練習して不足分を補いました。

 

まぁ、ほんとぶっ倒れるんじゃないかというくらい練習しましたよ。

僕はコントラバス担当でしたが、楽譜はオケと同じで今までにないくらい真っ黒い楽譜。

当然、推した立場としてはサボるわけにもゆかないので音の一つひとつにまで集中して練習。

中学校から引き続き入ってくれた同じ楽器の後輩も、よくついてきてくれたと思います。

 

コンクール一週間前は学校の合宿所に泊り込んでの練習。

部活とはいえ、部員の親に金銭的迷惑をかけるわけにはゆかないので、朝食は家庭科の人たちが準備、昼食と夕食はほっかほっか弁当(今のほっともっと)の弁当。

弁当の交渉もCDを買った悪友と一緒に行きました。

一週間分、合計1000食のオーダーを出すので少しくらいおまけして欲しいと交渉。

向こうは規則で値引きできないと。しかし根強く交渉した結果、1日一食ならということで決着。

 

でも、栄養不足か最後は結構フラフラになってましたねw

 

練習も、顧問の先生が毎日見てくれました。

大学時代の専攻は声楽なのですが、それでも各楽器を回って指導して、知り合いの先生を呼んでいただいて。

さらには離島に住んでいる知り合いの先生まで読んで指導してもらう徹底ぶり。

あとで何気に知ったのですが、実は往復の飛行機代、先生の財布から出ていたんですよね。

どうもありがとうございます。

 

で、コンクール当日。

実のところよく覚えていませんでした。

 

覚えているのは2日目の結果発表。

まずは金賞に入るのかどうか。

 

長崎の場合、金賞と銀賞を聞き間違えないように、金賞はゴールド金賞と発表されます。

一応、各賞には数の制限はないので、それなりの演奏をしていれば金賞に入れるはずです。

 

他の強豪団体がつつがなくゴールド金賞を取る中、いよいよ自分たちの番。

 

発表者の口から「ゴ」という発声が出ただけで、もう全員狂ったように叫び、立ち上がって喜んでしまいました。

何せ金賞が遠のいてましたからね。

 

一通り発表したのちは、県代表の発表。

県代表になれば九州大会への切符が得られます。

 

まずは金賞だったので高望みしていませんが、やはり代表になって見たいものです。

しかし、ここで考えるのは、先の発表でゴールド金賞をとった団体と、これまでの実績から九州大会に行けると思われる学校を考えると、すでに本命は埋まってます。

自分たちの高校の前には、すでに本命校が3つあったと思うので、これらが選出されると終わり。

 

これまでにない緊張感を抑えつつ、県代表の発表を聞きます。

 

発表はプログラム順。

一つ目、二つ目の本命校が予想通り発表されました。

二つ目の本命校とうちの学校の間には九州大会に行ける権利がある学校はありません。

 

本当に、喉から心臓が飛び出そうなくらい胸が締め付けられ、これまでに蓄積した疲れでもう倒れそうな状況の中、三つ目に発表された高校の名前。

 

なんとうちの高校だったのです。

 

もう、みんな歓喜にあふれ、何がなんだかわからない状況になってしまいました。

僕は、開放感というか、充実感に見舞われ、場所柄もなく男泣きをしてしまいました。

確か、左後ろに顧問の先生(ちなみに女性)がいたのですが、その先生も大泣きしていて、今でいうハグ状態になったような気もしますw

 

長くなるので、九州大会の話はまた別の機会にしますが、本当にこれくらい忘れられない曲なのです。三角帽子という曲は。

三角帽子 第一、第二組曲

さて、本題をNHK交響楽団の話に戻しましょう。

 

実は、N響の演奏で三角帽子を聴くのはこれで2回目です。

どちらも放送ですが、一回目は運よくコンクールの練習をしていた高校二年生の夏、そして二回目が今日です。

 

三角帽子自身はバレエ組曲なので、全部通すと約40分なのですが、今回の演奏ではその中から聞きどころをファリャ本人自身が編曲し直した演奏会用組曲(約20分)で演奏されました。

 

ファリャという作曲者は初めて聞く、という方はいるかもしれませんが、実はこの曲、有名人も結構関わっているのです。

 

番組では触れられていませんが、三角帽子というバレエを上演するにあたり、作曲を依頼したのは有名なロシアの舞踏興行主ディアギレフ。

 

ディアギレフ本人が関わった曲で有名なものだけあげていくと、ダッタン人の踊り、シェエラザード(リムスキー・コルサコフ)、ペトルーシュカ、火の鳥、春の祭典(ストラビンスキー)、白鳥の湖(チャイコフスキー)、ダフニスとクロエ(ラヴェル)などなど。

 

初演時の舞台衣装を監督したのは、あの有名なパブロ・ピカソだったのです。

 

昔、バルセロナに行く機会があって、予定が空いたのでピカソ美術館に行ったことがあります。

一通りギャラリーを周り、ミュージアムショップに立ち寄った時に、実は「三角帽子初演時の衣装について書き記した」図録を見つけたのです。

 

その時、買うか買わまいか非常に迷ったのですが、まぁどこでも手に入るかなと思い、買わないまま後にしてしまいました。

 

しかし、その後結局入手できずじまい。

この時から、欲しいものはその時に手に入れることにしました。

 

 

話を演奏データに戻しましょう。

 

指揮はファンホ・メナ。

スペイン北部のバスク地方出身で、ウィーンフィルとの共演を経たのち、現在はBBCで指揮を執る若手指揮者です。

N響とは初の共演。

 

さて、どんな演奏を見せてくれるのだろうと思い録画を見たのですが…日程をキャンセルしてでもライブで見るべきでした。

実に後悔してしまうほど、熱狂的な演奏を見せてくれました。

まぁ、当日は絶対にキャンセルできない別の予定があったので、聴きに行くことはできなかったのですが、それでも演奏を聴き、指揮の姿を見ると後悔してしまいました。

 

全体的にはやや重い演奏なのですが、三角帽子というストーリを音で表現するために、ファリャが仕組んだ様々な技法を十分に引き出し、そして、ホタ(終曲)では指揮台から落ちるのではないかというくらい飛び回り、悪代官を捉えた後の村人たちの換気を表現を最大限引き出していました。

 

正直、コンクールのために頑張ったあの当時を思い出し、再び男泣きしそうなくらいの感動を覚えました。

カニサレス?

さて、この日のクラシック音楽館では三角帽子以外の曲も演奏されました。

 

プログラムの二曲めはロドリーゴのアランフェス協奏曲。

三角帽子以上にそのメロディーは有名だと思います。

 

そして、招聘されたギタリストはカニサレス。

恥ずかしながら初めて知ったギタリストなのですが、またこの人がすごい。

 

演奏のテクニックもさながら、本人の哲学もまたすごい。

 

彼は、アランフェス協奏曲の題材となるフラメンコの魅力を引き出すために、フラメンコ・ギターを使うことを考えていました。

しかし、管弦楽とのセッションでは、フラメンコ・ギターでは足りない点もある。しかし、じゃあクラシックギターを使えばいいかというと、フラメンコ特有の節回しができない。

 

そこで、この曲のために、カニサレスモデルと呼ばれるハイブリッドギターを依頼したというエピソードがあるそうです。

 

それ以外にも、過去の来日時、いろんなメディアの取材に応じていますが、そこでの発言が実に重い。

 

そして実に不思議な存在。

フラメンコに精通している人は知っているようですが、最初、カニサレスというキーワードで調べても、出てくるのはサッカー選手だけ。

 

気になって気になって、とうとう彼の本名まで調べさせるほど、魅力的なギタリストです。

 

こちらの話は別の機会にすることにします。