僕が住んでいる所は、昭和40年代に首都圏に集中した官公庁の(一部)移設を目的に開発された地区です(それほど遠回しに言う必要もありませんが...)。
当時はほとんどの土地が畑か雑木林で、そこの中をいくつかの道が主要な集落を結ぶように走っていました。
ちなみに、こんな感じです。
http://archive.gsi.go.jp/airphoto/ViewPhotoServlet?workname=CKT7412&courseno=C41&photono=15
その後、多くの土地が買収されたり、あるいは賃貸され、都市計画に基づきアメリカのような直線的な幹線道路が東西南北にわたって舗装され、多くの研究機関や大学などが移転してきました。
その後、1980年代までは陸の孤島と呼ばれていましたが、1985年頃から市の中央部と東京とを結ぶ高速バスが設定され、一時は5分に1本、つまり1時間で12本、さらには臨時増発で15本近いバスが東京と結ばれ、さらには近年つくばエクスプレス(はい、つまりつくば市のことです)が開業し、陸の孤島というのも過去のものとなりました。
最近は郊外型のショッピングセンターや駅周辺のモールにおしゃれなお店がたくさん開業し、昔は買う服がない(つまり、センスのない服しか売っていない)と嘆いていた友達も驚くほどになりました。
開発にあたっては多くの農家が立ち退きを迫られたのですが、先ほどのリンクで見られる航空写真の中央部、左下から右上に走っている街道沿いの町並みは、市の中心部から歩いて10分であるにもかかわらず、この当時のたたずまいを残しています。
この地域は苅間(かりま)というのですが、苅間地区はまとまった集落だったため、今でも市街化調整区域として、住宅の建築を含め開発に規制がかかっています。
この集落の中に「かつ美食堂」という食堂があります。
初めてのれんをくぐったのが1995年頃なのですが、いまでもその食堂は営業を続けています。
ここの食事は大変おいしくて、しかしながら値段は安いため、地域の方だけでなく学生や単身の方が多く訪れる場所でした。
今日、7年ぶりくらいにこの食堂にいってみました。
写真でも撮ってくれば良かったのですが、忘れてしまいました。
昭和生まれの方は昔の風景を思い出しながら読んでください。
駐車場は舗装されているものの、ラインは土地に対して斜めに引かれており、少しでも多くの車が停められるようになっています。それでも停められる車は10台くらい、ライン間の幅は1500ccクラスのセダンが止められる程度で、最近見かける7人乗りの車を停めるにはかなり狭い駐車場です。
外壁は下半分が茶色いタイル張り、そこから上は漆喰がぬられています。
入り口は懐かしい茶色のサッシで、下から子どもの背丈位までは曇りガラスになっています。
店の中には6台の4人掛け机と1台の6人掛け机。
机の天板は木目調の、いかにも食堂といった感じの机です。
食卓と表現した方が適切ですね。
壁は木目調のベニヤ張り。昔はどこの家でも木目が印刷されたベニヤ板を内装に使っていたものです。
その壁には元横綱大鵬の手形とサインが入った額縁や、茶色く変色してしまった市内の地図などが貼ってあります。
床はタイル張り。
初めて訪れてから15年立っていますが、どこ一つとして改築した部分はなく、しかし小綺麗につかわれています。
厨房とを区切る壁には、表札くらいの大きさの黒い塩ビ板に、白のペンキで「ハムエッグ定食」「エビフライ定食」や、「納豆80円」「目玉焼き180円」「各種飲料100円」などのメニューが書かれています。
その下にあるホワイトボードには、魚を中心とした定食類が手書きで書かれています。
海から遠く、15年前はスーパーですら綺麗な魚を獲ることが難しかった時代、そのお店では新鮮なカツオの刺身やサンマの塩焼きを出してくれました。
それらのメニューはいまも変わることなく健在。
今日の日替わりは「チキンカツとブリの塩焼き」。これに大盛りご飯とみそ汁、小鉢、漬け物が付いて650円です。
昔も650円。いや、680円だったような機がします。
出された定食は、これまた懐かしい、黒のベースに赤く模様が入った漆塗り風のお盆の上に、もう30年は使われているのではないかと思うような、しかし割れ目もなく、綺麗に使われているお皿に料理が盛りつけられています。
そのお皿は、最近の薄い、どちらかというと磁器のようなお皿ではなく、厚みのある昔ながらのお皿です。
チキンカツは丁寧に筋切りがしてあり、食べると心地よいサクサク感が味わえる衣とさっぱりとした鶏肉が、油料理であることを忘れさせる食感を与えてくれます。
ブリの塩焼きも、焼きすぎず、しかしながらしっかりと中まで火が通った状態で出されます。
醤油をかけなくとも、下ごしらえで使われた塩とブリの風味だけで充分に味わえます。
とても650円とは思えないほど、おいしくて、そしておなかいっぱいになる日替わり定食でした。
自宅に帰ったあとは、久しぶり食後の居眠りをしてしまったくらいです。
僕は映画「三丁目の夕日」よりはもっと若い世代(志村けんが入ったあとの、後期ドリフ世代)です。
もっとも、あの映画に出てくる琺瑯(ホーロー)の看板は懐かしいですけどね。
今日はおいしい料理だけでなく、昔の良き日々も思い出させる、懐かしい時間を過ごすことができました。