つくばというと、昔から陸の孤島と揶揄されてきました。
交通手段は高速バスか土浦駅からのJRだけ。高速バスは上野・東京駅ですが、首都高での渋滞に悩まされ、到着まで3時間かかることは日常茶飯事でした。
また、JRを使っても、つくばセンターから土浦駅までのバスの所要時間が40分、土浦駅から上野駅まで普通電車で70分かかりますから、東京まで買い物に出ることは一大イベントでもありました。
しかし、つくばエクスプレス(TX)開業以来、住宅開発や商業施設の開業があいつぎ、人口はそれほど増えていないものの、市内各所で渋滞が発生するなど、これまでとは一転した様相を見せてきました。また、この春圏央道が現時点での開通予定区間をほぼ竣工させたことにより、県外からのアクセスも容易となったこともその理由の一つでしょう。
しかし、だからと言ってつくば市内のすべての地区が便利になったわけではありません。
とりわけ、筑波大学つくばキャンパスを中心とする地域と学生が住む地域(春日1-4丁目、天久保1-4丁目)はコンビニや定食屋、弁当屋はあるもののスーパーマーケットは無く(過去に何度か作られましたがすべて撤退)、この地域は地図上ではつくばの中心にも関わらず住環境としては必ずしも良いとは言えませんでした。
が、なんと「筑波大学にショッピングモールが設置される」というニュースが正式に発表されたようです。
先日は「筑波大学にアリーナができる」というニュースが流れたものの、あくまでも構想段階だったようですが、ショッピングモールについては本格的に稼働するようです。
筑波大学とその周辺
筑波大学第三エリア、および第二エリア付近。この一帯は映画・パラサイトイブでのロケ地に選ばれた経緯があります。背後には国立大学有数の蔵書数を誇る筑波大学附属図書館があり、一般の方も入館・閲覧が可能です。また、国立大学の図書館としては珍しく、開架式(自分で蔵書を手にとって読める)図書館であり、毎日遅くまで多くの学生らでにぎわっています。
筑波大学の地理的条件
筑波大学は、つくばセンター(バスターミナル)・TXつくば駅から関東鉄道が運行するバスで約15分の距離に位置します。
ただ、筑波大学の敷地は南北に4kmあり、また学内を一周するループ(周回道路)の総延長は10kmを超え、その各所に研究施設や学生宿舎が配置されています。
バスはこのループに沿って10ヶ所以上配置してあるため、行きたい施設によって所要時間が多少変わってきます。また、大学行きのバスは「筑波大学中央(本部棟止まり)」「筑波大学循環(左回り・右回り)」の3種類があるため、バスの選択によっても所要時間が変わったり、あるいは使うことができないバス停も存在します。
また、筑波大学の入り口には「案内所」はあるものの、基本的には解放されており、学内道路は誰でも自由に通行することができます。ループには信号機はないため、過去には救急車が緊急走行していたのを目撃したこともあります。
筑波大学の学生、および職員に限っては、つくばセンターから筑波大学までの定期券を利用することができ、この区間に限って乗降が無制限であり、またバスは各方向15分おきに設定されているため、事実上の学内移動バスとして定着しています。
筑波大学周辺の衣食住環境
筑波大学はつくば市天王台1-3丁目(ただし、大学講堂がある地域は天久保4丁目、隣接の筑波大学附属病院は天久保1丁目)にあります。
また、筑波大学の敷地を挟むように、西側には春日1-4丁目、西側には天久保2-4丁目(正確には天久保3丁目の居住区の一部が西側にあるため、学生の間では「隠れ天3(あまさん)」と呼ばれています)が存在し、その多くが学生が住むアパート街となっています。
ただ、春日1-2丁目は大学から遠く、また西大通りと隔てられているため、3-4丁目のアパート街とは違い、賃貸マンションや雑居ビルが多い地域となっています。また、5年前には春日学園(一貫制の小中学校)が設置され、今まで小学生・中学生の児童生徒が見られなかった地域でも子どもたちがよく見られるようになりました。
しかし、近年開発された研究学園地域や、過去に大規模な宅地造成・土地改良が行われた桜地区や筑穂(花畑・大穂の北側)と違い、カスミのようなスーパーマーケットが存在せず、近年になっても食料品の買い物には車がないと不便な地域となっています。
もちろん、学生街とあって昔ながらの定食屋から弁当屋、コンビニ、喫茶店のほか、最近はミニテラスがあるケーキ屋さんなど、20年前と比較するとよりエンジョイできる環境も整ってきています。
また、古いアパートはどんどん改築されており、昔は「できる限りやすい学生宿舎で」が学生の希望でしたが、最近は「綺麗でプライバシーが保てるアパートへ」という方向に向かっているようです。
学生の懐事情
しかし、学生の懐事情は決して良くないのが事実です。
学生のタバコ離れ、車離れが顕著になっていると近年新聞などで取り上げられていますが、つくば近郊も例外ではないようで、タバコを吸っている学生というのは昔ほど見かけなくなりました。
また、昔はオンボロであれほとんど誰でも車を所持していましたが、今は維持費もかかるためか、車持ちの学生は少ないようで、買い物も自転車か乗り合いで行っていることがほとんどのようです。
一方、つくばはアルバイトに関しては買い手市場です。
コンビニや飲食関係のアルバイトは沢山ありますし、留学生を含めたくさんの学生が働いているのを目にします。
また、つくばという土地柄、塾講師だけでなく家庭教師の需要も高く(僕が学生の頃も塾講している友達は沢山いました)、短時間でかなりの収入を上げている人も多いと思います。
ただ、実家からの仕送りについては、正確に把握はできませんが、新聞などで報道されていることから判断しても、やはり奨学金などに頼らざるを得ない人が多いのも事実でしょう。
筑波大学周辺には、以前は自転車でも通える圏内にファミレスなどがあって、期末テスト前は混雑していましたが、最近はかなり淘汰されてきているようですので、外食より自炊して節約している学生も多いのは事実だと思います。
筑波大へのショッピングモールの進出
大学内の限られた衣食住環境
筑波大学には新入生全員をほぼ受け入れることができる学生宿舎が、大学の教育施設を挟んで南北に三ヶ所あります。
北側は一ノ矢宿舎(近くには初詣でも賑わう一ノ矢神社があります)、南側には追越・平砂宿舎があります。
基本的には教育施設の配置に近くなるよう、北側に配置されている工学部や理学部系(第二エリア・第三エリア)に通う学生は北の一ノ矢宿舎、南側の人文系や体育、芸術系に通う学生は南側の追越・平砂宿舎に割り当てられます。ただし、例外もあるようで、学生の頃は友達の出身、受験区分(推薦や一次・二次など)と照らし合わせながら推測したものですが、所属以外には明確な基準はなさそうでした。
さて、これらの宿舎には共用棟と呼ばれる施設があり、コンビニなどが入っているのですが、必ずしも学生の欲求を満たすものではありません(でした)。閉まる時間も早く、サークル活動に入っていると利用することもできないため、必然的にそれらの施設は規模縮小・撤退が余儀なくなります。
南側の追越・平砂宿舎側はつくばセンターにも近く、自転車を20分も漕げばそれなりの食材を得たり、あるいは敷地外にある定食屋に行くこともできたのですが、北側の一ノ矢宿舎の近辺にはコンビニや定食屋はごくわずかで(1993年当時は近くのコンビニまで、筑波山方面に20分くらい行かないとありませんでした)、車無しには生活することは極めて不便でした(とある新聞に特集記事まで組まれたほどです)。
このような背景があるものの、またそれでも月額1万円、光熱費は実質無料の宿舎を希望する学生は多く、二年生になったらほぼ全ての学生が民間のアパートに引っ越さざるを得ませんでした。
しかし、ここ数年の様子を見ていると、最初から綺麗なアパートで生活する学生も多く、また、大学も学生の住環境を改善すべく、学生宿舎の改築を行ってきました。
しかし、依然として食環境については改善が行われていないのが事実のようです。
筑波大学主導のショッピングモールの設置
そして、つい先日、大学主導でショッピングモールの設置が発表されました。
大学は土地を貸し、そこに建てる施設については提案者の主導で決めることができるシステムのようです。
地元の茨城新聞のほか、いくつかの新聞で報道されていますが、ここでは読売新聞の記事を引用します。
2018年10月の竣工を目指しており、延べ床面積約が約1200平方メートルの食品スーパーと、約500平方メートルのカフェなどが入る店舗の2棟が入るとのことです。
この記事では詳しい場所もわかりませんし、敷地規模もピンときませんが、筑波大学新聞がこのことについて過去に触れていたので、PDF記事をダウンロードして読んでみると詳しいことがわかります。
ちなみに、建設予定地はこの辺りになるようです。
敷地は完全に学内ですが、学外からも利用できるよう、学外者用の駐車場も提供されるとのことです。
利便性への考察
さて、この場所に施設ができたとして、利便性はどのようになるのでしょうか。
学内での公平感
新聞でも触れられていますが、商業施設ができる地区は、平砂宿舎がら芸術専門学群までのペデストリアンデッキ(ペデ)沿いとなります。
この辺りは以前は古くからの雑木林が残っている地区で、ごく最近までうっそうとしていたところなのですが、痴漢などの被害が後を絶たないため、数年前にほぼ全ての樹木が伐採されてしまいました。
また、ついさっき知ったことなのですが、この周辺は緊急時のヘリポートとしても利用する場所ということらしいです。
筑波大学内でこれほど広い敷地で、手がついていない土地というのは他にありませんので(一ノ矢宿舎に行く途中の広場もありますが、あそこは昔から一応広場として利用されています)、この土地が候補に上がったのだと思います。
この地区は平砂・追越地区からは至近距離になり、また天久保にある学生街からも近いため、それなりの施設ができれば需要は高いと思います。
しかし、北側の一ノ矢地区からは、大学の教育施設をほぼ全て経由して行かなければならないため、不公平感は否めないと思います。
一ノ矢から筑穂のカスミまで行くよりははるかに近いと思いますが、よほど魅力的な店舗にしない限りここまで足を延ばす可能性は低いかもしれません(ちなみに、スタバであれば中央図書館にあるので、ここまで来る必要はありません)。
近隣からの利用
大学としては、学生のみならず近隣住民からの利用も想定しているということなので、それについて考えて見たいと思います。
昔は天久保・春日の両地区は学生のアパート街であり、昔からの地主さんを除けば一般住宅が立つことはまずありませんでした。
しかし、最近は学生の居住区が桜地区へ移ったり、あるいはTXでの通学が増えたということもあって、アパートとして利用していた土地が宅地に転用されている様子も見受けられます。
しかし、天久保・春日の両地区には商業施設が少なく、特に食料品については現在では研究学園(特に学園の森地区)や桜地区へ足を伸ばさないと行けないため、このような施設が大学にできることについては歓迎されると思います。
しかし、道路一本で大学の敷地に入れる天久保と違い、この施設に隣接する地域にありながら、入構口がない春日側は、車で行く場合には大学病院方面まで一度南下するか、平塚線中央交差点付近まで北上する必要があります。
自転車であれば、技術短大付近のファミリーマートから学内ループに入ることができますのでそれほど問題はありませんが、春日地区の一般住民を取り込むのはちょっと難しいかもしれません。
春日1-2丁目付近には生鮮食料品を扱う店がなく、一番近い店でもトライアルかコストコだっただけに、このニュースにはちょっと期待されましたが、実際の利用率については疑問が残るところです。
入構口の閉鎖の歴史
実は、春日側には、過去いくつかの入構口がありました。
一つは大学会館近くの入り口と、もう一つは要付近の入り口です。
大学会館付近の入り口は、かなり昔に閉鎖されていたようでした。
春日側からの利用者が多かったようですが、北側が急な勾配の陸橋であり、見通しも悪く接触事故が多かったため、早期に閉鎖されたと聞きました。
一方、要側の入り口は10年くらいまで使えた記憶があるのですが、何らかの事情で閉鎖されてしまいました。
したがって、過去は入り口が存在していたのですが、治安や交通安全の観点から閉鎖されたということです。
もしこれらの入り口が利用できるようであれば、春日側の利用ももっと見込めるのではないかと思います。
地域に密着した大学の運営
実は、地域に根付いた大学の運営というのは、今に始まったことではなく、設立当時から行われていました。
学内共用施設の解放
筑波大学にも他大学と同じく、学内には食堂や書籍部があります。
これらの施設は、普通であれば大学関係者(正確にいうと大学生協の加入者)しか使うことができませんでしたが、筑波大学は歴史的な理由(学生運動が盛んな時期に大学ができたので、結社の制限を行った)のため、生協が存在しません。
しかし、食堂で提供される食事の値段はこの数年ほとんど変わっていないようですし、書籍や文具についても一般の人でも購入可能です。
2017/8/4追記
筑波大学の学食を学外の人でも食べることができる話を書きましたので、よかったらみてください。
しかも、書籍は基本的に再販価格が設定してあり、Amazonであっても新刊は定価販売なのですが、筑波大学の書籍部(丸善)で購入すると、誰でも一割引の恩恵を受けることができます。
意外と知られていないことですが、実はオンラインの丸善で書籍を購入し、筑波大学内で引き取りと支払いを指定することも可能で、どんな本でも10%引きで購入できるのは意外と知られていない事実です。
大学会館での映画上映会
現在はつくば市内にシネマコンプレックス(シネコン)が多数ありますが、昔は映画館すらありませんでした。
筑波西武ができてからは、5階に映画館ができましたが、維持できるほどの入場者数はなかったようで、2000年になる前に営業を終了した記憶があります。
このような状況でしたので、かつては筑波大学の講堂で、映画の上映会が開催されていました。
当然、周辺住民の娯楽でもあり、当時は学生のみならず、多くの住民が観に訪ずれたようです。
映画も今のようなデジタルシネマではありませんし、全国を一巡して使い古したフィルムでの上映ですから、決して質の良い上映ではありませんでしたが、スクリーンサイズはシネコンと比較にならないほど大きかったですし、何と言っても無料だったので、気になる作品があったら観に行きました。
「やどかり祭」は近所の住民と盛り上がった祭
筑波大学では祭が二回開催されます。
一つは秋に開催される「学園祭」ですが、もう一つは五月に開催され、「やどかり祭」と呼ばれる、学生宿舎の有志主催でのお祭りです。
学類(他大学でいう学部)独自の神輿を作ったり、あるいはゆかコン(浴衣コンテスト)が開催されるあたり、学生主体という雰囲気が漂います。
ちなみに、ゆかコンは基本的に女性が出ますが、女性が少ない学類など、時々女装子が出るあたりも観てて面白いところです。
ところでこの「やどかり祭」、宿を借りる、という言葉が転じてつけられた名前ですが、お祭りの発祥は、何もない筑波の土地で派手に盛り上がろうという思いと、近隣住民との交流の場を持ちたいという思いが重なって始まったと言われています。
なので、やどかり祭当日はバスの運行を中止してまで実施されますし、近隣住民などのための駐車場の準備なども、全て学生の手によって行われます。
やどかり祭は子どもを連れて何度か行ったことがありますが、宿舎の中で行われているお祭りだけあって、学園祭とはまた違った楽しみがあります。
まとめ
筑波大学に商業施設ができる、という話題を中心にするつもりでしたが、周辺事情の方が長くなってしまいました。
しかし、今回の商業施設を作る意図がどこにあるのかわかりませんし、大学が資金獲得のため商業化しているという非難も出てくることでしょうが、大学のあるべき新しいモデルケースとして成功するか否かが注目されるところだと思います。