さて今日は、ここ1ヶ月にわたってうちの水槽を悩ませてきたRTN(Rapid Tissue Necrosis)とその病原菌であるビブリオ菌への対策、そしてAZ-NO3や最近流行となりつつあるZEOvitの添加剤が引き起こす「落とし穴」についてまとめてみたいと思います。

RTNとビブリオ菌

RTNとは、ミドリイシの共肉が根本(先端のこともある)からパラパラとはげ落ち白化して、やがてミドリイシそのものを死に至らしめる病気です。
明らかにRTNとわかる時もありますが、RTNかどうか疑わしいこともあります。そのような時は別に作った海水の中(飼育水の中ではだめですよ)で疑わしいミドリイシの根本を持って何回か洗ってみるとわかります。

ミドリイシからはがれ落ちた共肉が舞っているようであればまずRTNとおもって間違いありません。

RTNの原因菌として、ビブリオ菌が挙げられます。ビブリオ菌は常在菌といい、海水の中にはある一定の割合で存在する菌です。もちろん、作りたての人工海水には入っていないでしょうが、魚やサンゴに付着して持ち込まれるものと思います。

普段は硝化細菌などの、いわゆる善玉菌が優性なため、ビブリオ菌は大量に発生することはできない状態にありますが、なにかのきっかけで優劣が逆転すると、あっという間にビブリオ菌が優性になります。

硝化細菌の代表であるシュードモナス属やニトロソモナス属の細菌が、分裂するのに半日から1日を要するのに対して、ビブリオ菌は10分で分裂します。したがって、一度ビブリオ菌が優性になってしまうと劣性に戻すのは至難の業となります。

ちなみに、ビブリオ菌は魚の生食が要因となる食中毒菌の一つです。ただし、真水に対する耐性がないので、仮にビブリオ菌が繁殖した水槽に手を入れたとしても、きちんと手洗いすれば問題は無いと思います。

また、ビブリオ菌はRTNだけでなく、ソフトコーラルの壊死や魚への感染も引き起こします。

ソフトコーラルについては、たとえばトサカ類であればしぼみ、時として壊死し細胞が腐れたり、マメスナギンチャクやボタンポリプ類であれば、ポリプの開きが悪くなります。ウミアザミなら溶けてなくなってしまいます。

魚の場合ですが、やはり常在菌ということもあって魚の体内には少なからずビブリオ菌が存在するようですが、菌が異常に繁殖すると、ビブリオ菌由来の病気を発現することもあるようです。

従来のRTN対策

ではこれまで、RTN対策としてどのような対策があったのでしょうか。
結論から言えば、「沈静化するまで(優劣が再度逆転するまで)待つ」というのが多くの経験者が語るこたえですが、考え得るものをいくつか挙げてみたいと思います。

大量換水

調子が悪くなったら大量換水、と口癖のように言われますが、RTNに対しては効果が無いというのが僕の結論です。
実際、200リットルの大量換水を中1日おいて2度実施しましたが、効果はまったくありませんでした。

理由は単純です。

ビブリオ菌は10分で2分裂します。1個の細菌が24時間で2の48乗個にまで分裂するわけです。一方、消化細菌は数時間で一分裂。新鮮な海水に対して、どちらが優性かは明らかです。

試しに作り置きした海水にバクテリアを投入し、エアレーション、炭素源など繁殖に必要な物を入れ、十分に繁殖したころを見計らって換水したこともありましたが、まったく歯が立ちませんでした。

また、ミドリイシのように環境の変化に弱いサンゴは、大量換水そのものがストレスとなり、白化を招く要因になることすらあります。

従って、RTN対策に大量換水は有効な手段とは言えないでしょう。

薬浴

サンゴの薬浴の場合、具体的にはヨウ素殺菌になります。

シーケムがリーフディップという製品を出していますし、ヨウ素系のうがい薬で代用することもできます。

新しい海水に薬液を適量入れ、その中にミドリイシをしばらく付けておきます。

状態がひどい場合には、薬液を直接塗り、その後薬浴する方法もあります。

では、薬浴がRTN対策に効くかというと、その後の対応次第です。

薬浴したミドリイシを別の水槽に移した場合は、RTNの進行が止まる場合もあるでしょう。

しかし、元の水槽に戻したところで元の木阿弥です。海水に残っているビブリオ菌が再度ミドリイシをおそいます。従って、RTNの根本的な対策にはならない、というのが結論です。
ところで、ショップで買ってきたミドリイシを薬浴させるというのは、ヒラムシを水槽に持ち込まないようにする水際対策として非常に有効です。海水に薬液を入れ、その中にミドリイシを浸します。数分たったら薬液の中でミドリイシを軽く振り、ヒラムシを落とします。

ソフトコーラルには難しいと思いますが、ハードコーラルであれば骨格部分に行うのは有効だと思います。

殺菌灯・オゾナイザー

では、殺菌灯はどうでしょうか。

おそらく、効果があると思います。

しかし、それはある条件を守った上での話です。

ある会社の殺菌灯は、300リットル対応で、適応循環水量は毎分10リットルとあります。毎分10リットル以下の水量であれば、効果的に殺菌できるということです。

毎分10リットルということは、1時間で600リットルです。
外部濾過ならともかく、オーバーフロー方式の場合を考えると、1時間600リットルというのは回転数が少なすぎます。300リットルの水槽で2回転、200リットルで3回転です。

揚水ポンプが適切に選ばれ、また配管がシンプルにくまれているのであれば、通常5回転以上海水がまわるはずです。逆に言えば、適切に配管されたオーバーフロー水槽に、「適合水量の」殺菌灯をとりつけたところで、殺菌灯内部を通り過ぎる海水のスピードは速いため、十分に殺菌できないという結果になります。

このことを考えると、現状の殺菌灯はお守り程度の効力しかないと言う結果になります。当然、ビブリオ菌に十分な紫外線をあてることはできず、効果は期待できないというのが答えになると言えるでしょう。

水流が適合するのは、3ランク上の殺菌灯となってしまいます。

一方、オゾナイザーの場合はどうなのでしょうか。

オゾナイザーは使ったことがないので何とも言えませんが、UV殺菌灯と比較しても殺菌能力が遙かに高いため、相応の効果は期待できると思われます。しかし、石灰藻すら白くしてしまうほど殺菌能力が高いため、導入は慎重にならざるを得ないと思います。

ちなみに、このオゾナイザーを実際に使っていたことがありました。
日本製で、かつ日本の湿度に合わせて開発されていたので、性能をフルに生かすことが可能です。

起動すると、オゾン特有の臭い(コピー機の臭い)が発生します。有害なので換気が必要です。
ただし、このクラスになるとオゾナイザー対応のスキマーを使って、海水に十分溶け込ませる必要があります。

ビブリオ菌を克服するには

これまで、様々な方法でビブリオ菌対策を取ってきました。上述した方法のほか、ラクツロースという酵素とビフィズス菌が入った胃薬を海水で溶かし、飼育水に入れることでビブリオ菌を劣勢にすることも試してみました。たとえば、ハートトレードのPMF(プロバイオテックマリンフォーミュラー)もビフィズス菌を使って善玉菌を優性に保つ製品です。

残念ながら、これらの方法もまったく効果がありませんでした。
しかし、一つだけ効果が見られた対策があります。

それは、「水槽の中のすべての細菌を殺菌する」という方法です。

殺菌灯と同じ考え方ですが、やり方が全く異なります。

以下、ある製品を紹介しますが、回し者ではなく、いちユーザーとして、多くの人にその効果を知ってもらいたいと思って商品を紹介します。

来る日も来る日もビブリオ菌対策を考えていました。検索は様々なキーワードで調べて、それらの対策を試して見ましたが、全く効果が出ませんでした。

ある日、どういうキーワードだったか忘れましたが、あるいは通販でしらみつぶしに製品をしらべていたのかもしれませんが、ジュンコーポレーションというメーカーの「ドクターラボ」という製品を見つけました。

天然の鉱石や抽出物を使い、水槽内のあらゆる菌を殺菌してしまうという製品です。

正直なところ、かなり胡散臭い感じがしましたが、価格がミドリイシ1個をダメにするよりも安いので、ミドリイシ1つを追加で買うつもりの気分で購入してみました。

説明書きを読むと、約一週間で効果が出るとのこと。

活性炭を取り出し、水流のあるところに置くだけだそうです。ほかの対策はもう無いに等しいので、生体に万が一のことがあってもあきらめるつもりで試して見ました。
ドクターラボは、バイオペレットリアクターからサンプに戻ってきたホースの先端部にネットに入れて取り付けました。ここがサンプの中で一番流量のある部分です。
それからは毎日観察の日々。
まず翌朝はこれといって変化なし。ハタゴも異常なし。

このような状況が3日ほど続きました。

4日目、試しにワイルドもののミドリイシをいくつか入れてみました。

結果は3勝3敗。

6日目、チヂミトサカを入れてみました。

チヂミトサカはトサカの中でもかなりセンシティブな種類なので、結果がハッキリ出ます。

結果は、異常なし。むしろ立派にポリプを延ばしています。

7日目。

再度ミドリイシをいくつか入れてみました。

今度はブリードとワイルドが2個ずつ。

結果はすべてOk。

ということで、ドクターラボを使ってのビブリオ菌退治は成功しているようです。

成功した要因の裏には、バイオペレットを使っていたというのもあると思います。

ベルリン方式であれば、硝化細菌まですべて死滅させてしまいますが、バイオペレットのような物理濾過を入れておけば、そこに付着している硝化細菌でアンモニアを分解できます。ただし、濾材やバイオペレットは一度真水で消毒し、硝化バクテリアを十分に繁殖させておく必要があります。

また、バイオペレットなので、反硝化作用も行われています。なので、硝酸塩ゼロのまま、ビブリオ菌を劣勢に持ち込むことができたのだと思います。

水槽内の様子ですが、シアノバクテリアが発生してきました。
普段は嫌われ者ですが、ここではむしろ、水槽内のバクテリアバランスが自然に戻りつつあると捉えたほうが正解でしょう。

おわりに

さて、今回はRTN対策についてまとめてみました。100%確実とは言えませんが、ビブリオ菌を劣勢に追い込む方法を見つけ出すことができました。
明日、ワイルド物のミドリイシがいくつか入ってくるという連絡をお店からもらっているので、いくつか抱えて帰ってくる予定です。
明日くらいにはドクターラボを水槽から取り出し、活性炭に入れ替える予定です。

その後、一時中断となっていたZEOvit環境の構築に戻りたいと思います。

今日も長々と書いたのでこのあたりで終わりにしますが、明日はAZ-NO3やZEOvit、VSVメソッドなどに共通する「炭素源の追加」とその副作用について考察してみたいと思います。

ビブリオ菌が異常繁殖した事実は、実は自分が原因であることが明日明らかになります。
おたのしみに。