キャビネットまわりを整理中、照明の方からパチンという音が聞こえました。
明らかに、何かが照明のフードに当たった音です。
直感的に、ハタタテハゼの飛び出しだとわかりました。
ちなみに、自宅でいままで飛び出した魚はスレッドフィンアンティアスだけで、ハタタテの飛び出しは初めてです。
急いでキャビネットの裏を見ると、ハタタテハゼが苦しそうにもがいていました。
側面から手を伸ばそうと挑戦してみましたが、届きません。
ならばキャビネット内部からと、暗中模索状態で排気口から手を伸ばしてみました。
なんとなく手が届くことはわかったのですが、うまく助けられません。
側面からの確認と内部からの救助を繰り返しているうちに、救助の影響か暴れているためかわかりませんが、ハタタテハゼは完全にキャビネットの下に潜り込んでしまいました。
こうなると、もう打つ手はありません。
気分を変えるために冷蔵庫から牛乳を取り出し(それしかなかった)飲んだあと、もう一度キャビネットの裏を見てみました。
そこには、完全に息絶えたハタタテハゼの姿が見えました。
明かりを頼りに自力で出てきたのかもしれません。
しかし、もう、ぴくりとも動いていません。
もう一度キャビネット内部から手探りで探してみました。
ぬるりとした感触があり、その後尾びれをつかんで取り出すことに成功しました。
手のひらに載せられたハタタテハゼは、少し埃にまみれていましたが、水中とは違った鋭い目つきをしていました。
さよならする前に、せめて埃だけ落としてあげようと、手のひらをそっと水槽の中に入れました。
なぜ、水槽の中に入れたのか、自分でもわかりません。当然、海水はわずかながらも汚れてしまいますが、そんなことを気にしてはいませんでした。
体表のきれいなグラデーションを眺めていると、エラが動きだしていることに気づきました。
よく見ると口も動かしています。
何度かしっぽを大きく動かします。
しかし、このような動きは寿命を全うする魚に特有の動きであり、まもなく完全に息絶えるのだろうとおもってじっと見ていました。
しかし、何分たっても呼吸を続けています。
ずっと手のひらに載せておくわけにも行かないので、とりあえず別の容器に一度移そうと思いました。
しかし、手の届く範囲に適当な容器がありません。
仕方がないので、とりあえずくぼんだ形をしているエンタクミドリイシの上に一度寝かせようと手を動かした瞬間、ハタタテハゼは自分から泳ぎだしました。
正確に言うと、泳ぎだしたというよりも、花びらが散るような、そんな動きで砂底まで落ちてゆきました。
急いで再度様子を確認すると、きちんと胸びれで体を支え、呼吸もしているようです。
ただ、まだ元気に泳ぐだけの体力は回復していないみたいです。
水槽に戻ったハタタテハゼは、バートレットアンティアスのテリトリーで体力を回復させようとじっとしています。
ハタタテハゼのテリトリーは洞窟エリアであり、バートレットがいる場所まで泳ぎに来ることは滅多にありません。
バートレットも、ハタタテハゼを攻撃することは普段ありませんが、安心できる状況ではないことは間違いありません。
また、夜中になるとヤドカリなどのいたずらがあるかもしれません。
しかし、水槽に戻った以上、あとは運に任せるしかありません。
寝るまでの間、様子を観察しつつ、明日、仕事から戻ってきたときに、ハタタテ三匹が元気に泳いでいることを願うしか、僕にできそうなことはなさそうです。